【医学博士が解説する緑内障研究】人工知能(AI)と緑内障


 

緑内障診断と機械学習モデル

最近、よく耳にする人工知能(以下、AI)。

医療分野においてもAIを活用する研究が盛んになってきましたが、その中でも緑内障の診断に関係する研究が発表されましたので、ご紹介します。

理化学研究所と東北大学の共同研究グループが、眼底検査等のデータを用いて、「緑内障の視神経乳頭形状分類を客観的に行う機械学習モデル」を構築しました。
(*1 参考URLは末尾に記載)

緑内障診療における「型」とは

緑内障の診療では、開放隅角緑内障の危険因子に基づき、眼底写真で見える神経乳頭の形状を4つの「型」に分類(ニコレラ分類)しています。

その「型」により、臨床的特徴、病態の進行速度、障害部位等が異なります。

そのため、医師はこの分類や他の検査結果から総合的に患者さんの緑内障の病態を理解し、治療方針を決めていきます。

この「型」を決める判断材料は、眼底画像です。

これまでは、眼底画像を読影した医師の主観的判断で分類されていたため、客観性がありませんでした。

そこで、この研究では、眼底画像だけでなく他の様々なデータも判定材料に使用し、「機械学習」によってそれらのデータを解析し、客観的に「型」を自動分類できるシステムを構築した、ということになります。

機械学習とは

「機械学習」とは、この研究の例でいうと、「こういうデータが集まった症例は、この型に分類するよ」というパターンを機械にたくさん見せて学習させる、という「手法」です。

まだ臨床のトレーニング中である、医学生や研修医の先生をイメージしてみて下さい。

彼らは最初から診断ができるわけではありません。

「たくさんの症例を繰り返し見て、学ぶ」という過程で、だんだんと「目の付け所」がわかってきます。

そして「あ、これはこのタイプの緑内障かな」という予測と、それに基づいた検査をすすめることで確定診断ができるようになるわけです。

ここで機械学習のすごいところは、学習した内容からあてはまる答えを単純に出すのでなく、人間と同じように、機械自身が「学んで、目の付け所を見つけ出し、結果を予測する」ということです。

緑内障診断にAIを活用する研究について

この研究では、皆さんも眼科で受けるお馴染みの検査であるOCT(光干渉断層計;眼底の断面を撮影する装置)の画像データをはじめ、血流や眼球の検査データ、カルテから得られる情報(年齢、性別等)など、合わせて91個のデータをはじめに使用しました。

機械に学習をさせていくうちに、機械自身がその中から「目の付け所」として9個のデータを「特に分類に有効なデータ」として見つけ出し、使用するデータを絞ることができました。

こうして構築された機械学習モデルで実際の緑内障患者の症例で分類をおこなったところ、正答率は87.8%だったということです。

間違った症例について確認してみると、複数の型の特徴を持つ症例であったことが判明しました。

このことから、研究グループはこの機械学習モデルによる視神経乳頭の形状分類の結果を提示することで、緑内障の客観的な臨床診断につながることが期待できる、としています。

ここで注意しなければならないのは、今回の研究による機械学習モデルは、「視神経乳頭の形状を自動分類する」という目的で作られたシステムであるということです。

たとえば、眼底画像で視神経乳頭と一緒に写っている目の血管に異常があったとします。

このモデルを使用して「血管に異常あり、なし」という分類ができるか、というと、「できない」わけです。

このように現状では、機械学習モデルは1つのことに特化したシステムです。

このシステムが実際に医療の現場で使用されることや、複合的・総合的な事象、さらには機械モデル同士が連携し相互に判断していくモデルの登場は、まだ少し先の話かもしれません。

しかし、そう遠くない将来に実現することを期待したいですね。

 

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AIと今後の医療

このように、AIを医療に活用していこうとする動きは、研究開発分野にとどまらず、国の政策として話し合われるようになってきました。

厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」の報告書では、世界中から報告される科学的知見の評価・分析をし、患者に係る大量の生体情報を把握して、国民に質の高い保健医療サービスを提供していくためには、AIのような科学技術の進歩を適切に活用していく必要がある、としています。

AI開発を進めるべき重点6領域として、「ゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、介護・認知症、手術支援」を挙げ、開発推進やAIを用いたサービス等の質、安全性確保のために必要な対応を検討しており、すでに推進枠として予算概算要求に組み込まれています。

さらに、政府は昨年「次世代医療基盤法(医療ビッグデータ法)」を成立させました(施行は今年の予定)。

AIを医療に活用するということは、同時に、大量の医療情報、すなわち個人情報を扱うことにもなります。

このような個人情報をどう扱うか、どこまで利用していいのか、というルールは今まで決まっていませんでした。

しかし、この法律で「医療情報を収集し、医療機関以外でも利活用できる仕組み」を政府が明確に示しました。

一定のルールに則り、目的にあったデータを入手・利用できることで一気に医療分野におけるAIの研究開発が加速していくことになるでしょう。
(参考URL*2)

 

【執筆者】さくらいあきこ医学博士

さくらいあきこ先生
横浜市立大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。
日本とアメリカで、癌を早期発見・診断するための分子標的薬の研究に従事。
現在は、1人でも多く早期発見することを目標に、予防医療の現場で活躍中。
自身も強度近視から生じる網膜疾患を発症。視力と視野の維持のために情報収集をしている際、ネットにおける医学研究の紹介やその内容はまだまだ分かりづらい、と実感。
患者さんに「医学研究」をより身近に感じて、自分の病気との関わりを実感してもらえるよう、執筆活動を開始。

 

参考URL

*1
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20171227_2/#note8
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0190012

*2
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000169232.pdf
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t304/201712/554216.html


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