糖尿病による高血糖の状態が続くと、全身の血管は硬く細く血流が悪くなり、全身にさまざまな合併症を及ぼします。

眼においては、虚血に陥った網膜に新生血管が増生し、それによる糖尿病性網膜症の発症・進行予防が緑内障にとても大切です。

そこで、新生血管緑内障の原因となる糖尿病網膜症の発症予防に魚の油に含まれるω(オメガ)3-脂肪酸が有効であることを示した論文をご紹介します。
オメガ3で緑内障予防
 

新生血管緑内障の原因である糖尿病網膜症とは?

まず、新生血管緑内障の原因となる糖尿病網膜症について説明します。
 
糖尿病網膜症は初期(単純型網膜症)から、中期(前増殖糖尿病網膜症)、重症(増殖糖尿病網膜症)に分けられています。

まず、初期の単純型網膜症ですが、高血糖の状態が長期に及ぶと、血管壁が傷み、血管が細く硬くなり、血流が減少します。

眼底にある網膜は細い血管(毛細血管)が豊富な組織であり、この血管が傷むと、血管の弱った部分が膨隆して毛細血管瘤となります。

脳にできる動脈瘤と同じで、瘤が破綻すると網膜内で出血を起こします。

この段階では、視力に影響がないため気がつきにくいのですが、糖尿病の診断次第、定期的な眼底チェックを行い、早期に厳重な血糖コントロールで進行を予防する必要があります。

しかし、未治療の糖尿病患者では放置されることが多いのが現状です。
 
中期になると、毛細血管が閉塞し、網膜が虚血に陥り酸素や栄養不足となります。

この状態を打破するために、網膜組織はVEGT(血管内皮細胞増殖因子)と呼ばれるホルモンを放出し、新しい血管を生やし始めます。

この血管を「新生血管」と言います。

この時期になると、レーザー治療といった積極的な治療が検討されます。
 
さらに進行した状態は増殖糖尿病網膜症と呼ばれます。

網膜に増殖した新生血管は脆いため、破綻して出血(硝子体出血)を繰り返し、視力が低下します。

また、新生血管は網膜の上に成長し、頑丈な膜(増殖膜)を形成するため、さらに視力が低下する原因となります。
 

【糖尿病で緑内障が起こるしくみ】新生血管緑内障とは

では、糖尿病網膜症でなぜ緑内障が生じるのでしょうか?

緑内障は、眼圧が上昇して眼底にある視神経を圧迫し、視神経が障害をうけて最終的に失明に至る疾患です。

眼圧は、眼球内の水分である房水の量で調節されています。

房水は眼球表面の角膜の隅にある隅角という出口を通り、眼球内部から外へと放出され、眼圧が常に一定に保たれるような仕組みとなっています。

しかし、進行した糖尿病網膜症患者では、隅角にも新生血管が生じるため、房水が流出できず、眼圧が上昇してしまいます。

これを「新生血管緑内障(血管新生緑内障)」と呼びます。

新生血管緑内障を防ぐためには、糖尿病および糖尿病網膜症を早期の段階でみつけ、段階に応じた適切な治療を受けることが失明予防に重要なのです。
 

オメガ3-脂肪酸の摂取で糖尿病合併症の予防

そこで、魚介類に含まれるω3-脂肪酸と糖尿病網膜症の関係について調べた研究が、2016年8月にスペインのオーガスト・ピー・イ・スニェール生物医学研究所より発表されました。

調査では、地中海食と低脂肪食による心血管疾患の一次予防効果および2型糖尿病への影響を検討するべく、2型糖尿病の既往を持つ55〜80歳のスペイン・バルセロナ在住の患者3,600人を対象に調査が行われました。

対象者は、研究開始前に8種類の魚介類の摂取量を尋ねられ、その後約5年間渡り摂取量の追跡調査が行われました。

その結果、研究前の時点でオメガ3-脂肪酸を500mg以上/日摂取(切り身2切れ程度)していた人は、それ未満だった人よりも糖尿病網膜症の発症リスクが48%減少していることがわかりました。

オメガ3-脂肪酸は、DHAやEPAとして知られており、サーモンの油やイワシやサバなどの青魚に多く含まれており、抗炎症活性を発揮することでさまざまな疾病予防効果が期待されている物質です。

なお、研究者らは、オメガ3-脂肪酸は酸化し変異しやすい物質であり、サプリメント摂取が研究と同等の効果をもたらすとは言えないとしています。
 

最後に

今回は、日本人の主食でもある魚介に含まれる「オメガ3-脂肪酸」が、新生血管緑内障の原因となる糖尿病網膜症の予防に効果的であるという研究をお伝えしましたが、いかがでしたか?

40代以降に多くなる2型糖尿病は未診断未治療患者も多く、発見時期が遅れるほど、糖尿病網膜症および血管新生緑内障のリスクも高くなります。

早期発見のためには、健康診断に加え、40歳以降では1年に1回の眼科検診が推奨されています。

また、日常的に青菜類や魚介類をバランスよく摂取することで日頃から緑内障リスク軽減に取り組みましょう。
 

(参考資料)

文献
Introducing Anti-Vascular Endothelial Growth Factor Therapies for AMD Did Not Raise Risk of Myocardial Infarction, Stroke, and Death.
Ophthalmology. 2016 Aug 11; pii: S0161-6420(16)30585-1.
Arseniy P Yashkin, Paul Hahn, Frank A Sloan
http://pmc.carenet.com/?pmid=27523614

英語料理書籍ガイドブック
http://ecook.nyslowlife.com/archives/2007/07/post_7.html

日本眼科医会 糖尿病で失明しないために
http://www.gankaikai.or.jp/health/35/

関西医科大学 眼科学教室 糖尿病網膜症について
http://www.kmu-eye.com/original18.html

血管新生緑内障の診断と治療
http://www.igaku.co.jp/pdf/1510_tonyobyo-04.pdf

糖尿病ネットワーク
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2016/025220.php

ω3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物の構造 と機能
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-11-08.pdf


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