緑内障の症状について
緑内障は、眼球の中の圧力(眼圧)が上がり、そのために視神経に障害が起きる病気です。
その結果、視野狭窄(見える範囲が狭くなる)を起こしたり、失明したりします。
緑内障の視神経障害・視野障害は、 基本的には進行性で、 非可逆的と考えられています(失われた視野は戻りません)。
そのため、早期発見・治療による、障害の進行の阻止・抑制が重要です。
(通常は、 眼圧を十分下降させることで視神経障害を改善・抑制することができます)
発症の原因は、先天性、外傷性、ステロイド剤の副作用などありますが、それらが引き金となって、房水(眼球を満たしている血清に似た液で、眼圧を保ち、角膜・水晶体に栄養を補給している)の循環が滞り、眼圧上昇(眼圧が上がること)で症状があらわれます。
(詳しくは「緑内障の原因」の記事をご覧ください)
平成16年の国内の大規模調査によると、40歳以上では5.78%の人に症状がみられます。
最近では、眼圧は基準内であるにもかかわらず、緑内障の症状が表れる「正常眼圧緑内障」が圧倒的な比率を占めるようになっています(約78%)。
「正常眼圧緑内障」は、日本人に多く、若い人に増えています。
詳しい原因はまだわかっておらず、注意を要します。
症状は、見える範囲が徐々に狭くなっていくのですが、進行は非常にゆっくりで、かつ、両目同時に進行することは滅多にないため、多くの場合、自覚症状はほとんどなく、治療が遅れ失明に至ることもあります。
(網膜神経節細胞が死滅することで起こる病気ですので残念ながら眼鏡では矯正できません)
そのため、緑内障は失明原因の1位の目の病気となっています。
(失明の原因としては、1990年の調査では、糖尿病性網膜症についで2番目に多く、その後、2002, 2007年の調査では、緑内障は、中途失明のトップ原因といわれています)
しかし、定期的に検査を受けて、早期発見・早期治療を行なえば、失明になるリスクを防ぐことができる病気です。
過度に心配するのではなく、定期的な検査によって、早期発見・早期治療に努めましょう。
(治療方法の詳細は、緑内障 治療の項目をご覧ください)
緑内障は中高年の方に起こる代表的な病気のひとつとなっています。
視覚情報は非常に大切で、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)にも大きな影響を及ぼしますので、たとえ自覚症状がなくとも、40歳を過ぎたら、眼科検診を定期的に受けましょう。
あと他にも、「最近文字が読みづらい、老眼かな」「乱視かな」と見え方に異常を感じた際に、緑内障による視野欠損が理由の場合もありますので、早めに受診なさってください。
緑内障の症状の分類と概要
緑内障の本態は、進行性の網膜神経節細胞の消失と視野異常(緑内障性視神経症)ですが、隅角の所見や 眼圧上昇につながる疾患・状況の有無や要因によって、次のように分類できます。
分類の仕方にも諸説考えられますが、治療という観点からは、眼圧上昇機序による分類が有用であることから、以下のような分類が一般的です。
1.原発緑内障(primary glaucoma)
1-1・原発開放隅角緑内障
1-1-1.原発開放隅角緑内障
1-1-2.正常眼圧緑内障
1-2・原発閉塞隅角緑内障
2.続発緑内障(secondary glaucoma)
3.発達緑内障(developmental glaucoma)
1の原発緑内障は、
1-1・原発開放隅角緑内障(房水の流れる出口が老廃物で詰まる)
1-2・原発閉塞隅角緑内障(房水の流れる出口がふさがる)
にわかれます。
さらに1-1は、
1-1-1.眼圧が高いもの(原発開放隅角緑内障)と、
1-1-2.眼圧が正常の範囲内のもの(正常眼圧緑内障)にわかれます。
2.続発緑内障は、他の病気や薬などの長期使用で発症するものです。
糖尿病網膜症やぶどう膜炎、白内障などが原因のものや、炎症を抑えるステロイド剤の長期使用が眼圧を上げることもあります。
3.発達緑内障は、生まれつき隅角に異常があるタイプの緑内障で、子供にみられる先天的なものです。
生まれつき隅角に発達異常があり、起こりますが、異常の程度によって、発症時期が遅れる遅発型と早発型とがあります。
隅角だけでなく、虹彩発育異常による軽度の低形成などを合併することもあります。
また、いわゆる牛眼と呼ばれていた角膜径増大や角膜混濁などの病態となることも多くあります。
他には、他の先天異常を伴う緑内障として、無虹彩症、スタージ・ウェーバー症候群、ペータース異常、神経線維腫などに伴う発達緑内障があります。
(詳しくは、子供の緑内障(発達緑内障)のページをご覧ください)
緑内障の症状:原発開放隅角緑内障について
原発開放隅角緑内障の発症および進行の危険性は、眼圧値が高いほど、高まります。
広義の原発開放隅角緑内障には、原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障とを含みますが、そもそも正常な眼圧値そして、眼圧に対する視神経の脆弱性には個体差がありますので、特定の眼圧値によって、厳密には分類することができず、臨床現場等では、便宜的に高眼圧群と正常眼圧群という形で区分されています。
(ちなみに、多治見スタディという大規模調査における眼圧分布によると、右眼眼圧は14.6±2.7mmHg(平均値±標準偏差)、左眼眼圧は 14.5±2.7 mmHg(同)でしたので、平均値±2標準偏差で正常眼圧を定義すると、正常上限は 19.9~20.0 mmHgということになりますので、この辺りで正常眼圧緑内障との区分がなされるようです)。
原発開放隅角緑内障は慢性進行性の視神経症で、視神経乳頭と網膜神経線維層に変化が現れます。
たとえば、視神経乳頭辺縁部の菲薄化(うすくなる)や、網膜神経線維層が欠損するなどします。
詳しくは、原発開放隅角緑内障のページをご覧ください
緑内障の症状:狭義の原発開放隅角緑内障について(primary open angle glaucoma)
広義の原発開放隅角緑内障のうち、眼圧が正常値以上のものを、狭義の原発開放隅角緑内障と呼びます。
眼圧上昇が視神経症の発症に関与していることが強く疑われます。
(なお、角膜厚が厚いほど眼圧は高く評価される点に留意は必要です)
ただ、眼圧は一日のうちや季節によっても変動しますので、眼圧測定回数が少ないと、眼圧が正常値である場合も考えられます。
また、眼圧の値や房水動態の点などで、原発開放隅角緑内障と似ていても、視神経・視野障害につながらないものは、高眼圧症(ocular hypertension)とされています。
高眼圧症から緑内障へ進行しやすい要因としては、緑内障の家族歴、血管因子、加齢や人種などがあります。
緑内障の症状:正常眼圧緑内障について(normal tension glaucoma, normal pressure glaucoma)
広義の原発開放隅角緑内障のうち、眼圧が常に正常値であるものを、正常眼圧緑内障と呼びます。
眼圧が正常だからといって、視神経症の発症に眼圧が無関係と言い切ることはできませんが、循環障害など、眼圧以外の因子も関係すると考えられています。
また、眼圧は一日のうちや季節によっても変動しますので、「常に」正常範囲である、と言い切るには、日内変動測定などが必要となります。
詳しくは、正常眼圧緑内障のページをご覧ください。
緑内障の症状:原発閉塞隅角緑内障について(primary angle closure glaucoma)
原発閉塞隅角緑内障は、隅角閉塞によって眼圧が上昇して、緑内障性視神経症となるタイプです。
隅角の構造と緑内障性視神経症の有無によって、次のように分類されます:
1.原発閉塞隅角症疑い(primary angle closure suspect:PACS)
原発性の隅角閉塞があるが、眼圧上昇や緑内障性視神経症などが生じていないものを指します。
2.原発閉塞隅角症(primary angle closure: PAC)
原発性の隅角閉塞があって、 眼圧は高いけれど、緑内障性視神経症は生じていないものを指します。
3.原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma:PACG)
原発性の隅角閉塞があって、緑内障性視神経症が生じているものを指します。
隅角が閉塞する仕組み
隅角が閉塞する仕組みには、いくつかあります。
1.相対的瞳孔ブロック(relative pupillary block)
虹彩と水晶体間の房水の流出抵抗の上昇によって、虹彩の前方が膨隆することで、隅角が閉塞します。
ほとんどの原発性の隅角閉塞に関与していると考えられています。
2.プラトー虹彩(plateau iris)
虹彩根部が前方に屈曲して、散瞳時に直接隅角を閉塞させます。
虹彩の形態異常ですので、定量的に定義することはできず、画像診断で判断します。
3.水晶体因子(lens factor)
水晶体の加齢等による増大も、原発性隅角閉塞発症の原因となり得ます。
(そもそも瞳孔ブロックも水晶体と虹彩の間の房水流出抵抗の増大によるものですので、水晶体は関係しています)
4.毛様体因子
急性発作において、見られることがありますが、通常はあまりありませんが、毛様体も隅角閉塞に関与する可能性があります。
緑内障の発症速度による分類
急性型と慢性型があります(混合型も)。
急性型は、通常、隅角が閉塞して、眼圧が急激に上昇することで、緑内障の症状が出るものです。
慢性型は隅角の閉塞が徐々に起きるため、眼圧上昇は緩やかであるケースが多いです。
詳しくは、急性緑内障と慢性緑内障の発作・症状・治療・原因のページをご覧ください。
緑内障の症状:急性原発閉塞隅角緑内障と急性原発閉塞隅角症について
眼圧は40~80 mmHgまで上がることが多いです。
視力の低下や、眼痛、頭痛、嘔吐などの自覚症状があります。
虹彩の前方への突出、瞳孔の散大や結膜・毛様の充血などが起きている可能性があります。
また、隅角鏡では、広い範囲での隅角の閉塞が確認でき、眼底では、乳頭浮腫や乳頭出血などが起きている場合もあります。
薬物による散瞳(散瞳点眼薬, 抗コリン薬内服など)や、暗所などが発作の原因となり得ます。
緑内障の症状:慢性原発閉塞隅角緑内障について
原発閉塞隅角緑内障の多くは、慢性型です。
眼圧が高いとは必ずしも限らず、隅角検査において原発性の隅角閉塞に伴う器質的隅角閉塞(周辺虹彩前癒着)を伴うものと伴わない(非器質的隅角閉塞)ものがあります。
原発開放隅角緑内障と区別するためには、隅角鏡検査が必要となります。
緑内障の症状:続発緑内障について
続発緑内障は、他の病気や薬などの長期使用で発症するものです。
糖尿病網膜症やぶどう膜炎、白内障などが原因のものや、炎症を抑えるステロイド剤の長期使用が眼圧を上げることもあります。
狭義の続発緑内障は、緑内障性視神経症(GON)が見られるもののみを指しますが、他の病気が存在することで評価が困難な場合もあるため、続発性の眼圧上昇があるけれど緑内障性視神経症はないものも含まれることが一般的です。
続発緑内障の分類について
続発緑内障の分類方法にはいくつかありますが(病因による分類や治療法による分類など)、以下には、眼圧が上昇する仕組みによる分類につきご紹介します。
眼圧上昇の仕組みによる分類は、治療の観点から有用ですが、病因が同じでも眼圧が上がる仕組みは異なる(変化する)ことがある点に留意が必要です。
続発緑内障の診断には、眼圧が上昇する仕組みを確認するため、隅角検査が必ず必要となります。
1.続発開放隅角緑内障の眼圧が上昇する仕組み
1-1 線維柱帯と前房の間の房水流出抵抗によるもの
線維性血管膜や結膜上皮などによって、異常房水流出抵抗が発生して起こります
1-2 線維柱帯の房水流出抵抗によるもの
落屑物質や炎症性産物等によって、異常房水流出抵抗が発生して起こります。
副腎皮質ステロイドの副作用によっても起こります
1-3 シュレム管後方の房水流出抵抗によるもの
上強膜静脈圧の亢進により起こります
(眼窩内の圧上昇に伴うもの、上眼静脈圧亢進によるもの等があります)
1-4 房水過分泌によるもの
2. 続発閉塞隅角緑内障の眼圧が上昇する仕組み
2-1 瞳孔ブロックによるもの
膨隆水晶体、水晶体脱臼、虹彩後癒着などが瞳孔ブロックの原因となって起こります
2-2 水晶体の前方移動による直接閉塞
水晶体脱臼が原因で、瞳孔ブロックはなくとも、直接隅角が閉塞することがあります
2-3 水晶体より後方に存在する組織の前方移動によるもの
硝子体前方移動、毛様体脈絡膜滲出などによって起こります
2-4 前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着によるもの
血管新生緑内障、虹彩角膜内皮(ICE)症候群、ぶどう膜炎、手術、外傷などによって起こります。
眼圧とは
眼圧とは、眼球の内部から外側に加えられている圧力のことです。
この圧力によって眼球の丸い形や網膜の張りが保たれています。
眼球内には房水と呼ばれる液体が血液の代わりに流れていて、各部に栄養を運んでいます。
(房水の組成成分は血液の血清と似ています)
眼圧は、この流れる房水の量によって、一定に保たれる仕組みとなっています(眼圧調整)。
そのため、房水の流れが滞ったり、詰まったりして流れなくなると、循環眼球内の圧力が高まり眼圧が上昇します。
眼圧が上昇すると
わずかな圧力の増加によって、デリケートな視神経が障害を受けることがあります。
視神経は約100万本ありますが、その数は年齢とともに減少し、半分くらいになると視野検査で異常が見つかることとなります。
眼圧が高くなると視神経の衰退が早まったり、あるいは網膜の奥で視神経が束になっている部分(視神経乳頭)が痛められたりして、神経が機能を失うことがあります。
徐々に視野が欠けたり、最悪の場合失明する危険もあります。
いったん失われた神経機能は二度と回復することがないので、非常に怖いことです。
眼圧が上昇する理由
房水の循環機構に支障をきたす原因は、循環を終えた房水を外に排出している角膜と虹彩の境にある、前房隅角と呼ばれる部位に何らかの障害が生じるためと考えられています。
その結果、十分な排出がなされなくなり、溢れた房水が眼球内に溜まって眼圧を押し上げるのです。
眼圧(健康な人の正常値で10-20mm/Hg)の上昇は、わずかであっても視神経には取り返しのつかないダメージを与えることがありますので、油断は禁物です。
緑内障の症状:緑内障と白内障の違い
白内障も、40歳頃から徐々に増えてくる眼病(目の病気)で、眼のレンズである水晶体が濁る病気です。
白内障は、手術によって視力を回復させることができる一方で、緑内障で視神経に障害が起きると、現在の医学では回復させることができません。
緑内障の自覚症状
緑内障のタイプによっては(急性型など)、頭痛や吐き気を伴います。
しかし、多くの場合、痛み(眼痛など)や視野欠損(欠如)等の自覚症状はありません。
緑内障の早期発見のための検査の重要性
詳しくは「緑内障の検査」の項目に記載しますが、早期発見と治療のために、定期的に病院(眼科医)で検査を受け(ハンフリー視野検査等、眼圧検査(眼圧測定)、眼底検査、視力検査、隅角検査)、
眼そのもの、眼圧が正常か、視力や眼底の様子などを観察し、また、視野欠如(視野欠損)が起きていないか、視神経乳頭の状態はどうか、などを調べましょう。
両目それぞれの様子が(右眼と左眼とで)症状や進行の程度が異なる場合もあります。
そして薬(点眼薬=目薬)を中心とした治療をきちんと行うことがとても大切です。
進行の程度や眼圧降下の効果の出方を見ながら、必要に応じて、レーザー治療や手術(線維柱帯切除術など)を行います。
補足ですが、緑内障の治療は長期間にわたることが多いので、信頼できる眼科医を見つけることも大切となります。
著名かどうかということだけでなく、患者さんとの関係性の作り方がご自身と合っているか、もちろん視神経を守るという結果を残せそうか等、総合的に判断してみてください。
治療方法の詳細は、緑内障 治療の項目をご覧ください。
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