認知症と緑内障について

緑内障において、認知症と関連した研究がいくつかあります。

ここでは、認知症と緑内障の視野障害の評価を調べた研究についてお伝えします。

 

認知症対策は喫緊の課題 将来5人に1人が認知症

認知症に罹患する人の数は年々増加しており、厚生労働省のデータでは平成37年には65歳以上の認知症患者が700万人を超えるとされています。

これは、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になる可能性を示唆しています。

日本人の寿命は男性80.79年、女性は87.05年(平成27年度)であり、認知機能低下を予防し、生涯健康に長生きすることが喫緊の課題となっています。

 

認知症は高齢緑内障患者の視野検査に影響する?

視野検査や聴力検査などの一部の検査では、本人が「見えた」、「聞こえた」といった自己申告により結果がでます。

認知機能が低下している高齢者に視野検査を行う場合、「指示が伝わらない」「ボタンを押すのが遅い」「視線が定まらない(「前の点を見てください」といってもキョロキョロしてしまう)」「集中力の維持が難しい」「疲労で検査持続が難しい」といったことが往々にしてあり、検査結果が変動するため、結果の確かさが問題となります。

そこで、米カリフォルニア大学の研究チームは、認知症の視野検査への影響を検討するために、結果平均年齢67.4歳の115例を対象に認知機能検査と視野検査結果の変動を4年間追跡しました。

その結果、認知機能評価テストであるMontreal Cognitive Assessment(MoCA)のスコア低下と視野検査の変動には、統計調査において有意に関連性が認められることが分かりました。

 

認知症の進行予防に効果的なのは?

認知症には脳血管性、レビー小体型、アルツハイマー型などさまざまな種類があり、その種類によって原因、症状および治療は異なります。

しかし、フランスの研究では、スポーツ習慣は認知症全般のリスクを低下させるという結果が出ています。

さらに、東北大の研究では認知症の一次予防として1日1時間のウォーキングがリスクを低下させることが示されました。

この研究は65歳以上を対象としていましたが、65歳以下の生産年齢世代にける生活習慣が老後の健康に大きく影響することは言うまでもありません。

家から職場までの通勤の道のりを大股早歩きで歩く、職場でも階段を使用するなど、ぜひ日常でできることから認知症予防に取り組みたいものです。

 

認知機能と緑内障について

誰もが今後なる可能性がある認知症と緑内障検査の関係についてお伝えしました。

視野検査のように臨床検査は自覚的所見が結果に反映されるものも少なくないため、認知機能が低下すると検査所見の精度が落ちてしまいます。

また、視野障害があっても中心視野が保たれる場合は、運転免許更新の際も異常なしとされるため、高齢者ドライバーが増加する今後は、運転免許更新時の検査に(認知機能が低下していた場合は正確な評価が得られないかもしれませんが)視野障害の検査も必須とすべきかもしれません。

 

アルツハイマー型認知症治療薬 緑内障治療薬への応用に期待

アルツハイマー(AD)型認知症と緑内障には、血管と神経細胞の減少という病理学的な変化に類似点があります。

次に、そこに着目したカナダ・モントリオール大学の研究内容についてお伝えします。

 

アルツハイマー型認知症とは

ADは進行性の神経変性疾患であり、臨床症状としては進行する認知機能低下が問題となります。

原因の全てが解明されたわけではありませんが、コリン作動性機能障害が一因とされています。

この障害は、細胞外のβアミロイドプラークの蓄積による微小血管循環障害およびニューロン内の神経原繊維変化によって引き起こされ、これらが前脳基底部におけるコリン作動性ニューロンの減少を導きます。

コリン作動性受容体の働きが低下すると、神経伝達が低下し、記憶障害が起こることから認知機能が低下するのです。

現在AD治療の主軸は、コリン作動性受容体の働きを低下させるアセチルコリンエステラーゼを阻害して神経伝達を促進させる、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬です。

この薬は、微小血管および神経細胞保護作用を有するとされています。

 

アルツハイマーと緑内障の関連性とは

緑内障とADは一見関連性が無いように見えます。

しかし、病理学的変化として微小血管系および神経細胞の減少が起こるという点では類似しており、AD治療が緑内障治療にも活かせるのではないかと考えたのがカナダ・モントリオール大学の研究チームでした。

研究チームは、まず、緑内障において長年議論されていた、網膜血管の消失が先か眼内圧上昇が先か、さらにそれに付随して神経細胞の死が起こるのかを調べるために、マウスを使って高眼圧状態を作り出して検証し、その結果、早期の段階から眼圧上昇に伴い網膜血管および網膜神経細胞消失の変化が同時に起こることを確認しました。

 

アルツハイマー治療薬「ガランタミン」 緑内障治療にも貢献

研究チームはさらに、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬「ガランタミン」の血管系および神経細胞保護作用が緑内障にも効果を発揮するかを検討するために、緑内障モデルのラットを用いてガランタミンの全身投与を行いました。

その結果、ガランタミンは緑内障眼においてもアセチルコリン受容体を活性化させることで緑内障の微小血管の密度を維持し、さらに、網膜血流を改善させることにより神経細胞の生存を促す効果を発揮することが分かりました。

 

緑内障治療への応用について

治療の応用は、特に、抗がん剤領域では盛んです。

悪性腫瘍は全身にできることから、病理学的に類似点が多いことが関係しているでしょう。

しかし、今回紹介したように、アルツハイマーと緑内障という一見全く関連性がないような疾患であっても、病態が似ていることは多々あり、治療に応用できるのではないかと着目した点は素晴らしいですね。

日本において、まだガランタミンは緑内障に対しては未認可ですが、今後、ヒトでの臨床試験を経て緑内障治療の一手となることを期待しています。

 

(参考資料)

(参考資料)
Association Between Neurocognitive Decline and Visual Field Variability in Glaucoma.
JAMA ophthalmology. 2017 May 18; doi: 10.1001/jamaophthalmol.2017.1279.
Alberto Diniz-Filho, Lisa Delano-Wood, Fábio B Daga, Sebastião Cronemberger, Felipe A Medeiros
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28520873

厚生労働省 平成27年度 主な年齢の平均余命
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life15/dl/life15-02.pdf

Real benefit of a protective factor against dementia: Importance of controlling for death. Example of sport practice.
PloS one. 2017;12(4);e0174950. doi: 10.1371/journal.pone.0174950.
Leslie Grasset, Pierre Joly, Hélène Jacqmin-Gadda, Luc Letenneur, Jérôme Wittwer, Hélène Amieva, Catherine Helmer, Jean François Dartigues https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5393553/

Changes in time spent walking and the risk of incident dementia in older Japanese people: the Ohsaki Cohort 2006 Study.
Age and ageing. 2017 May 05;1-4. doi: 10.1093/ageing/afx078.
Yasutake Tomata, Shu Zhang, Kemmyo Sugiyama, Yu Kaiho, Yumi Sugawara, Ichiro Tsuji
https://academic.oup.com/ageing/article-abstract/doi/10.1093/ageing/afx078/3799582/Changes-in-time-spent-walking-and-the-risk-of?redirectedFrom=fulltext

Acetylcholinesterase inhibition promotes retinal vasoprotection and increases ocular blood flow in experimental glaucoma.
Investigative ophthalmology & visual science. 2013 May;54(5);3171-83. doi: 10.1167/iovs.12-11481.
Mohammadali Almasieh, Jessica N MacIntyre, Mylène Pouliot, Christian Casanova, Elvire Vaucher, Melanie E M Kelly, Adriana Di Polo https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23599333

アルツハイマー病の治療:現在と将来 田平 武
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/perspective_geriatrics_49_402.pdf

脳微小血管障害による認知症発症への関与 病院論的考察 冨本 秀和
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/33/2/33_194/_pdf


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